リハビリテーション課 理学療法士 西川久美
2024.7.12
1.はじめに
近年の医療、介護領域では、病気を患った方に対して、リハビリ、口腔状態や栄養状態などを別々に取り組むのではなく、それぞれが関連のあるものとして捉え、ケアの取り組みを強化していこうとする動きが活発化しています。そこで今回は、パーキンソン病と栄養に着目して、お話したいと思います。
2.パーキンソン病と栄養
1)パーキンソン病の栄養状態の現状
パーキンソン病は、体重が減少しやすい病気であり、パーキンソン病患者全体の52~65%で体重減少が認められます。そのため、パーキンソン病を患っている方の半数は低栄養状態か、その予備 軍であるとされています。
2)なぜ体重が減少するのか?
【摂取カロリーの低下】
- 病気による精神的な不安やうつ傾向により食欲が低下する
- 嗅覚の低下により、食べてもおいしさを感じにくくなり食欲が低下する
- 食事動作に時間がかかり、食事時間が長くなって、食べるのをやめてしまう
- 食事中むせてしまい、食べたくても食べられなくなる
- 消化管の運動が低下し、少しの量で満腹になってしまう
- 思うように動けないため、筋肉自体がやせてしまう
【消費カロリーの増加】
- パーキンソン病特有の震えや無意識的に動いてしまうこと(不随意運動)により、余分にカロリーを消費してしまう
以上の要因で、摂取カロリーと消費カロリーのバランスが崩れると、低栄養状態となり体重が減少します。
3)体重を減少させないためにはどうするか?
①適正な摂取カロリーをとる
まずは、ご自分の必要な摂取カロリー量を確認しましょう。
一日の活動量や体格により異なりますが、だいたい70歳以上の男性は2,200kcal、女性は1,750kcal/日が必要と言われています。詳しく知りたい方は、当院に管理栄養士がいますので、お気軽にお尋ねください。
食事内容は、脂質・糖質・たんぱく質をバランスよく3食とる。もし、それでも体重が減少するようなら、食事の合間に間食をとりましょう。一度に必要な量が食べられなくても、食事回数を増やして、一日の必要な摂取カロリーを取れるようにしていきましょう。
※飲み込みに問題がある(食物を飲もうとするとむせる)場合
食事でむせる方は、無理に食べ続けると誤嚥性肺炎の危険があります。そのような状態では、栄養をしっかりと取ることは困難なため、一度、医療機関を受診し、安全に食べられる方法を知った上で、食べていきましょう。現在は、少しの量でも十分にカロリーが取れる、便利な健康補助食品もありますので、病状に合わせて選ぶようにしましょう。
②食べすぎには注意しましょう
パーキンソン病の方にとって、栄養を取ることはとても大切です。しかし、一度にどかっと食べすぎると胃での吸収率が下がり、パーキンソン病の薬が効きにくくなるので、おなかいっぱいになるまで食べるのは避けましょう。
③適度な運動をしましょう
低栄養状態で、ジョギングや筋肉トレーニングなどの強い疲労を伴う過度な運動を行うと、筋肉を傷め、トレーニングをしているのに、強くなるどころか筋力が低下してしまいます。そのため、たんぱく質を中心とした栄養を適度に摂取しながら、「ちょっと疲れたな…程度の運動を1日30分、週3日以上行う」 と良いでしょう。適度に運動を行うことで、空腹を感じやすくなる、腸の動きが活発になりやすくなるなど、体に良い影響が出て、食事への意欲が高まりやすいです。
3.おわりに
パーキンソン病の方が、適正な栄養状態を維持するのは、簡単なことではありません。しかし、日々の食事を意識することで、さまざまなパーキンソン病に関わる症状を緩和することができると言われています。
パーキンソン病は進行する病気ですが、健康的に生活できる時期を長く確保するためにも、現在の生活状況を見直していただき、ご利用者・ご家族の取り組みの参考になれば幸いです。