パーキンソン病者の生活の困りごとと工夫②

リハビリ課 作業療法士 渡邊哲也
2024.3.7

パーキンソン病の症状は、運動症状だけでなく高次脳機能障がいや幻覚や鬱(うつ)といった見た目ではわかりにくい精神の症状も出現します。
ここではこれらの症状が生活にどのような影響を及ぼしているのか、パーキンソン病者への聞き取りから分かったこと、解決するための工夫点について2つ説明します。

1.幻覚に対する対応

まずパーキンソン病では、薬物の影響などもあり、幻覚、特に幻視の症状がみられることがあります。幻視は、実際にはそこに存在しない人物や物がはっきりと見えるという症状です。パーキンソン病の方は時折、何もない空間に対して話しかけたり、物を操作したりするような行動をとります。周囲からは奇異に見え、周りはその方への対応に困ってしまいます。

このようにパーキンソン病の方で幻覚が出現しているときは、本人がどのような気持ちなのかを表情や態度、言葉からくみ取りましょう。たとえば、目の前のパーキンソン病の方が何もない空間を指さし「ナイフを持った男性がそこにいる」と怯えていたとします。そこでは「それは怖いですね。何かあった時は私たちで対処しますね」などと伝えましょう。ナイフを持った男性は幻覚なので私たちには見えませんが、その方の不安な気持ちは事実なのです。また幻覚は、怖い物ばかりではなく、その方にとってどうでもいい存在であったり、時には楽しい存在であったりするようなこともあります。その時の気持ちを汲み取った言葉で返しましょう。

2.うつ症状に対する対応

次にパーキンソン病者の38~65%は、うつを合併するとの報告もあります。約20年前のある報告では、パーキンソン病の生活の質を決定する最大の因子は、うつであるとの報告もあります。このうつ症状は不安感が強い、または無感動、無関心が特徴的です。罪業妄想などが出現するうつ病とは異なります。しかし生活上の困りごとは似ていることもあります。うつを抱えている人は頑張り屋さんです。本人なりに一生懸命頑張っています。そこで「~してはダメです」などのきつい言葉で叱られてしまうとかなり落ち込みます。そのため本人が何か行動する時は「また怒られるのではないか・・・」と不安感が伴い、生活のあらゆる場面で委縮し、ただでさえ難しい運動がさらに難しくなってしまうのです。楽しい、やりたいといった前向きの感情は、本人の動作をスムーズにします。声掛けを一工夫することでパーキンソン病の方の生活の質は高まります。

 このようにパーキンソン病は、周囲からはわかりにくい困りごとを抱えています。中には認知症を合併し、物事の理解や判断が低下する方もいるでしょう。本人の気持ちに寄り添った関わりが生活の質の向上につながると思われます。上の具体例は、一例ですのですべてのパーキンソン病に当てはまらない可能性もあります。対応方法でお困りの場合は、クリニックスタッフにご相談ください。

参考文献 高畑進一,宮口英樹:パーキンソン病はこうすれば変わる!,三輪書店
村田美穂,岡本智子:パーキンソン病とうつ,第55回日本老年医学会学術集会記録