~にもかかわらず笑えるということの意味

リハビリ課 理学療法士 富樫誠二
2024.2.19

1.はじめに

あざやかに紅葉した木々も、やがて落葉し、そして寒さの厳しい冬がやってきます。私は、最近この時期になると、なぜか、もの悲しく、一抹の寂しさを感じます。年齢を重ねるにつれ、その感情がつよくなったような気がします。ふと、四季と人生には、色があるのだと教えられたことを想い出しました。早速、調べてみると、春は青、夏は朱(あか)、秋は白、冬は玄〈くろ〉と呼び、人生にも色があり、それぞれの時期を青春(青年期)、朱夏(壮年期)、白秋(初老年期)、玄冬(晩年期)というそうです。人は、それぞれの人生を、青、朱、白、玄と色の変化とともに、今を一所懸命生きている存在だといえます。

2.リハビリの日々の中で

そんな日々の中で、いつものように私は、パーキンソン病で長く闘病生活をしているAさんの居室をリハビリのため訪問します。ドアをノックして部屋に入ると、いつも笑顔で迎えてくれます。その人の語る人生の物語を傾聴しながら、病による苦しみや悲しみを推察することができました。それでも対話のなかで時折、ほほ笑みを見せてくれます。人生の朱夏から白秋にかけて、長く病とともに闘い、生きてきた人です。~にもかかわらず笑えることのできる人です。

3.パーキンソン病者のQOLとは

今、パーキンソン病者のQOL(生活の質・人生の質という意味)を向上することが医療や介護の目標となっています。QOLには主観的QOLと客観的QOLがあります。主観的QOLには個別性があり、その人らしさ、その人のもっている主観的幸福感や満足感が含まれます。客観的なQOLは病状の改善、療養環境の快適さ(人的・物的を含む)、趣味活動、社会的交流の有無などになります。とくに主観的QOLをささえることは、まだまだ難しさがあります。エビデンスはありませんが、~にもかかわらず笑える人は主観的QOLの高い人だと考えています。いかにしたら主観的QOLを向上させることができるのか、~にもかかわらず笑えるということの意味を問う、臨床の日々がつづいています。

4.病者の語る物語について

病者の語る物語は、~にもかかわらず笑えることを支えるために重要な情報となります。まず焦らず物語を語り始めるまでじっと待つことです、しかしこの待つは、受け身ではなく、能動的態度で待つことが肝要です。語りはじめたら能動的に積極的態度で傾聴します。物語から生きてきた背景や過去の体験、そして価値観(その人が大切にしているものやこと,物事に対する考え方)、心理社会的状況などを知ることができます。それらは、病者を理解することになります。さらに対話を通して、お互いの理解が深まり、相互作用によって信頼関係を築くことになります。~にもかかわらず笑えるということの意味は、自己と他者との信頼関係です。患者さんの語る物語をベースにした医療をNBM(Narrative based medicine)といいます。物語を通して信頼関係を築く医療です。
今、その重要性が注目されています。

5.おわりに

テーマを「~にもかかわらず笑えるということの意味」とした理由は、病気とともに、長い闘病生活をしているパーキンソン病者の皆様、またそれを支えているすべての方々にエールを送るためです。最後に、サムエル・ウルマンの青春という詩(宇野収・作山宗久訳)を紹介し、人生の白秋、玄冬を生きるすべての人にエールを送ります。

青春とは人生のある時期ではなく、心の持ち方をいう
バラの面差し、くれないの唇、しなやかな手足ではなく
たくましい意思、ゆたかな想像力、もえる情熱をさす。
青春とは人生の深い泉の新鮮さをいう。
青春とは臆病さを退ける勇気
やすきにつく気持ちを振り捨てる冒険心を意味する。
ときには、20歳の青年よりも60歳の人に青春がある。
年を重ねただけで人は老いない。
理想を失うとき はじめて老いる。
     中略
悲嘆の氷にとざされるとき
20歳だろうと人は老いる。
頭を高く上げ希望の波をとらえるかぎり
80歳であろうと人は青春の中にいる。