パーキンソン病者の生活の困りごとと工夫①

リハビリ課 作業療法士 渡邊哲也
2023.12.18

パーキンソン病の症状は、じっとしていても手足が震える(安静時振戦)、関節が動かしにくい(筋固縮)、バランスよく立てない(姿勢反射障がい)などの運動症状だけでなく、様々な症状が出現します。特に高次脳機能障がいは、順序立てて行動することができない(遂行機能障がい)、複雑なものに注意を向けることができない(注意障がい)、そこに存在しないものが見える(幻覚)などの症状が出現し、生活に大きな支障を及ぼすことがあります。
 ここではこれらの症状が生活にどのような影響を及ぼしているのか、パーキンソン病者への聞き取りから分かったこと、解決するための工夫点について4つ説明します。

①まずパーキンソン病者は、体を交互に動かすことが困難です。例えば歯ブラシを前後左右に動かす歯磨き、入浴時タオルで体を擦る洗体動作では、リズムよく動作ができないため途中で動作が止まってしまいます。このような時は、運動の方向を1方向のみ意識すると動作がうまくいくことがあります。例えば。歯磨きは、上から下、戻して上から下のように意識するとよいでしょう。

②また同じ動きを繰り返すことも難しいです。小字症がこれに当てはまります。文字を書いていると、次第に字が小さくなってきます。同じようなことが歩行中にも起きます。歩行中歩幅が次第に狭くなってきて、歩くだけでなく足を出すことが難しくなります。このような時は、運動の方向や動作を途中で切り替えるとうまくいくことがあります。小字症では文字が小さくなったときは、書くことを一旦止め、ペンを置いて休憩をとると、次に書き始めるときには初めと同じように大きな字を書くことができます。歩行でも同様に、一旦立ち止まって、はじめの一歩を大きく出すことから始めると歩幅がもとに戻ります。

③そしてうまく歩けたとしても、何かに近づくとき、距離を調節することが難しいです。例えば私たちは、ドアノブがついているドアを開けるとき、または手すりを使うとき、ちょうど手が届くところで立ち止まることができます。しかしパーキンソン病の方は、ちょうど良い所で止まることができないだけでなく、急いでつかまろうとして転んでしまうことがよくあります。このような時は、まず掴もうとするものをよく見て、手が届くところまでゆっくり近づいて、距離感を確かめながら行動しましょう。

④この他両手をうまく使い分けることも苦手です。例えば洗顔です。両手同時に動かしていますが、全く同じ動きというわけではありません。また鼻などの凹凸に合わせて力加減を調節しなければいけません。左右の手の力加減を調節しながら顔を洗うことが難しいのです。このような時は、無理して両手を使う必要はありません。片手で顔を洗いましょう。水を掬うことが難しければ、蒸しタオルなどで顔を拭くのも良いでしょう。

さて今回は運動面を中心とした生活の困りごとと解決のための工夫点を説明しました。しかしパーキンソン病者には、精神面や認知面の課題や幻覚などの困りごとがあります。この点については3月掲載予定の「パーキンソン病者の生活の困りごとと工夫②」で説明します。

参考文献 高畑進一,宮口英樹:パーキンソン病はこうすれば変わる!,三輪書店