「口からおいしく食べるから元気になるんですよ」の意味

リハビリ課 理学療法士 富樫誠二
2024.4.17

1.はじめに

僧侶であり、老人福祉施設の施設長でもあるA先生から「お年寄りは、口からおいしく食べるから元気になるんですよ。」と言われたのは島根県内の介護職員研修が終わったあとの懇親会のときでした。今から三十五年以上も前のことです。そのころは、まだ介護福祉士の国家試験もなく、これから実施される国試への対策として実技研修の講師として招聘され、会場がある松江にいったときのことです。A先生の施設では、おいしく口からたべることにたいへん力をいれているとのことでした。詳しくお聞きすると、料理には一流の調理師にきていただき、メニューに工夫をこらし、バイキング方式を取り入れ、一家団らんの雰囲気の中で、入居者の皆さんに,おいしくて栄養のある食事を提供しているということでした。求食家としての誇りをもち、春夏秋冬の季節をいつも感じていただけるようにと、常に季節に合わせた”味な企画”を心掛けているとのことでした。そのお言葉から、食に対する熱い想いと笑顔からは、やさしいお人柄が感じられたひと時でした。今では、食の充実に、取り組まれている施設は多いと思いますが、当時は、先鞭を着ける取り組みだったと思います。まだ現在のように、「口腔ケアや栄養管理に基づくリハビリの重要性」が十分に認識されていない頃のお話です。A先生とは、それ以来、音信不通ですが、いまでも思い出される言葉です。

2.口からおいしく食べることの意味

人間は命を育み、維持するために栄養や水分を摂取する必要があります。そのために私たちは、食べる行為を当たり前のように毎日繰り返し行っています。   

口から食べることにより、身体やこころによい作用をもたらします。その作用には、以下のことが考えられます。①視覚、嗅覚、味覚、運動感覚などから脳が刺激され、活性化します。② 食べ物を咀嚼すること、よく噛むことで唾液が分泌され、唾液に含まれるアミラーゼが消化を助けます。さらに唾液によって虫歯や細菌、ウィルスの防御をします。口腔内を清潔にする役割もあります。唾液のもつ力は人体にとってプラスの影響をもたらします。③毎日、口からしっかり食べることにより、嚥下機能の低下を防ぎます。高齢者に多くみられる「口の虚弱であるオーラルフレイル」は、早期から口腔機能を維持向上させ、誤嚥を予防することが重要です。③胃・腸に届いた食物は、胃や腸が動くことによって消化・吸収が生じ、栄養が体に届きます。食欲を満たすため、口からおいしく食べることは、口腔・咽頭・食道・胃・腸などの諸器官を連動して働かせます。それらの活動によって栄養を摂取し、それがQOLを高めることにつながります。

口から食べることに始まる一連のプロセスを日々、繰り返し維持することで元気になります。さらに、おいしく、楽しく食べることで心が満たされ、こころも体も元気になります。孤食ではなく、食事を通して団欒し交流することによって、生きがいを感じることにつながります。

口から食べるのが困難になった時には、摂食嚥下のリハビリテーションなどいろんな方法で支援していきますが、まずは、口から食べることの意義を知って、摂食嚥下機能を低下しないように、日々の食事を楽しみ、身体機能・精神機能の維持に取り組んでいくことが大切です。

3.リハビリと栄養

リハビリと栄養にはとても強い関係性があります。リハビリの効果をあげるためには、適切な栄養が必要となります。適切なリハビリと栄養管理が必要な疾患にパーキンソン病があります。パーキンソン病の運動症状改善には、運動療法が効果的ですが、そのためには、適切な栄養が必要です。しかし実際には、リハビリを実施している高齢者には、低栄養の方が多く、廃用症候群でリハビリを実施している患者さんの90%に低栄養が認められたという報告もあります。さらに要介護高齢者においては20~40%、入院中の高齢者においては30~50%の割合で低栄養が見られるといわれています。これらのことから「リハビリの内容を考慮した栄養管理」と、「栄養状態を考慮したリハビリ」が必要です。

 さらに低栄誉の方には、筋肉量が低下するサルコペニアが多く。パーキンソン病で,低栄養になると、筋肉量の減少から筋力や身体機能が低下するサルコペニアが生じやすくなります。しかし、適切な栄養管理を行い、リハビリを行うことで、サルコペニアを改善し,ADLやQOLを向上させることが可能です。

日本リハビリテーション栄養学会の理事長である東京女子医大の若林秀隆教授は、「レジスタンストレーニングや持久力増強訓練を実施してよいのは,今後の栄養状態が改善もしくは維持すると予測される場合である.栄養状態を評価しなければ,どのような機能訓練を行えばよいか本来,判断することはできない.そのため,栄養ケアなくしてリハなし栄養はりハのバイタルサインであるとリハビリでの栄養の重要性を強く提言されています。

低栄養の評価には、いろいろありますが、まず体重測定が欠かせません。低栄養は体重減少率から判断できます。「体重減少率」は「(通常体重−測定体重)÷通常体重」で算出します。1カ月間で5%の明らかな体重減少、または6カ月間で10%の明らかな体重減少が見られる場合は「低栄養状態」と判断されます。そのほか血液検査では、血清アルブミン値3.8g/dL以下は低栄養に注意が必要です。低栄養がみられる場合には、低栄養の原因を明らかにして、適切な栄養管理とリハビリを実施します。

4.おわりに

パーキンソン病者のADL及びQOLを高めるためには他職種連携を行い、変化する身体的・精神的・社会的状態を共有し、適切な栄養管理とリハビリ・口腔管理を実施することが重要です。

我が家のギボウシ
三和の桜 空が快晴でした