リハビリ課 理学療法士 西川久美
2024.3.21
1. はじめに
パーキンソン病とは、体が動きにくくなり、思ったように動作ができなくなる難病です。その症状は、眼の動きにも影響があり、食事の場面では、それが原因で、自分で食物を口に運ぶことができなくなることがあります。当院のリハビリ専門職は、パーキンソン病の影響で起こる眼の動きの特徴を捉え、それを踏まえて、食事の場面での工夫を行っています。今回は、その内容の一部を紹介します
2. パーキンソン病における眼の動きの特徴
- サッケードの速度低下
サッケードとは、視線を素早く移動させる時に生じる眼の動きのことです。例えば、興味のある物を見ようとすると、その対象物に視線を移します。通常であれば、すぐに視線を移すことが可能ですが、パーキンソン病では、対象物を見るときの眼の動きが遅いため、視線を移すスピードが遅くなります - サッケードの振幅の狭小化
パーキンソン病では、眼を動かすスピードが遅くなると同時に、眼の動く範囲が狭くなるため、目の前に置かれている物を、全体的に見渡し、認識することが難しくなります - 食事の場面でのデメリット
食事の場面では、食物が茶わん、汁わん、小鉢など、一つ一つの食器に分けて置かれ、隅々に意識を持っていく必要があります。しかしパーキンソン病では、①、②の眼の動きの影響により、見ることのできる範囲が限定されるため、通常の食器では、一つのお皿の食物だけを食べてしまったり、全てのお皿の食物を食べるのに、時間がかかりすぎて、食事時間の延長や疲労感による食欲の低下などにつながってしまいます
3. 当院でのリハビリ専門職の取り組み
当院では、リハビリ専門職が、パーキンソン病の方の状態を見て、必要に応じた環境を設定しています。その一つとして、前述したパーキンソン病の方の眼の動きの特徴を捉え、通常の食器から、ご飯、副食、副菜が一つにまとめられるようなワンプレート食器に変更しています。ワンプレート食器に変更すると、見る必要がある範囲が狭まり、ワンプレートに乗っている食物が全て視界に入るようになります。そして、食物をすくう距離も狭まります(下図)。食器を変更することで、負担なく全体を見渡せ、短い距離で食物をすくって口に運ぶことができ、疲れにくくなります。このように、当院では、さまざまな視点からパーキンソン病の方の病態を捉え、その方にあった環境を整えられるように、日々対応しています
【食器の違いによる視野の範囲図】
参考文献 中西一ら:アイトラッカーを用いたパーキンソン病患者の模擬的な食事場面におけるサッケードと固視の計測,日本作業療法学会