感情と理学療法 ~心が動くとからだが動く、からだが動くと心が動く~

リハビリ課 理学療法士 富樫誠二
2024.6.12

1.はじめに

いつも熱心に外来で理学療法に取り組んでいるAさんが、なぜか元気がない。体調について伺うと、介護をしている夫とのことで、悩んでいるとのことでした。詳しくお聴きすると、「私は、一所懸命、介護や家事をしているのに、夫は、遠くから大声で呼び、早くこいと怒鳴るばかりで、ちっとも感謝の気持ちがない、ずっと情けなくて不満がたまるばかりです」という。そんな中で、夫の思いやりのない感情的な言葉と態度に、つい、怒りを爆発させてしまいました。その出来事の後、夫に対しても、自分自身に対しても気持ちがモヤモヤして、すっきりしないし、やる気がおこらず、体の調子もよくないとのことでした。

そこで、アドバイスとして、「相手は変わらない、だから今、自分が変わるしかない」という言葉をお伝えしました。自分が変わること、それが、相手を変化させることだと説明しました。端的に言えば、自分がプラスの感情で、相手に接していたら、相手もプラスの感情になるということです。すぐに結果は、でないかもしれませんが、ポジティブな言葉かけ・接する態度・考え方を日常的に実行していくことが大切だとお話しました。

ネガティブな感情(いやだな、つらいな)に支配されると、行動もネガティヴになり、自己効力感や達成感を感じられなくなります。感情は、原始的なもので、本当にやっかいなものですが、ネガティブな感情に支配されず、感情をコントロールできれば、人間関係において「鬼に金棒」です。

後日譚ですが、Aさんは、在宅で病床にある夫のつらい気持ちを理解し、気持ちに寄り添いながら、笑顔と夫への感謝の気持ち、やさしい言葉かけ(プラスのストローク)で介護したそうです。そうすると次第に、夫との関係は、良好な関係へ変化したということです。今は、心に余裕をもって、楽しく理学療法に励んでいます。

2.感情と理学療法

理学療法は、病者のこころと身体にかかわる治療体系です。私は、パーキンソン病などの疾病に身体への対応と同時に心理的対応を行ってきました。心理的対応とは、病者の感情と同時に、理学療法士自身の感情に注意を向けることです。お互いの感情が共感すると人を動かし、さらに感動によって、心と体がゆすぶられます。そのことが、理学療法の効果を増幅させます。

3.心が動くと体が動く、体が動くと心が動くことの意味

リハビリでは、「遊びリテーション」が取り入れられています。これは、1980年代に三好春樹先生による「遊び」と「リハビリテーション」を組み合わせた造語で、「心が動くと体が動く、体が動くと心が動く」を実践した、リハビリの効果が期待できるレクリエーションのことです。

1980年代に、行政が老人保健法により機能訓練事業に力を入れ、地域リハビリ活動が活発になりました。私も、行政の要請で、地域にでかけて、風船バレーやベンチサッカーなど遊びりテーションでワクワク、ドキドキの楽しい時間を過ごしました。心が動くと、夢中になって体を動かします。動きの悪かった体が動くようになると、やる気がアップします。遊びの醍醐味は、楽しい、わくわく、おもしろいです。この感情が、病者の心を動かします。また、笑いや感動には幸せホルモンであるセロトニンを増やす効果があります。

4.おわりに

三好先生とは、九州リハ大の同窓で、1985年から開催した地域リハビリセミナーイン広島で、一緒に活動した時期がありました。その中で、本邦初公開のオムツのファッションショーの開催は、話題にもなり、懐かしく、楽しい思い出です。

パーキンソン病のQOLを高めるためには、笑いながら楽しくできるレクリエーションが効果的です。さらに探求したいと思います。

参考文献:富樫誠二他: 心理・精神領域の理学療法 医歯薬出版

新緑が美しいブラの林を見ながら歩きました