意思が伝えられることの大切さ

リハビリテーション課 理学療法士 西川久美
2024.10.29

はじめに

いでしたクリニックでは、神経難病のご利用者が多くいらっしゃいます。その中で、病気の進行に伴って、話にくくなり自分の言いたいことがご家族や職員に伝わらず、いら立ちや落ち込みを感じているご利用者がおられます。そこで、今回は、そのようなご利用者に対して、声以外の方法で、他者に自分の意思を伝えるにはどうしたらよいか、当院が行っている取り組みの一部をご紹介します。

声では伝えられないが、手足の動きが良い場合

この時期は、比較的手足は自由に動くため、身振り手振り、首振りなども利用して、意思を伝えることができます。ただ、長文の内容になった時は伝わらないことがあります。その時には、下記の方法で言いたいことを伝えていきます。

1)筆談

声の代替えとして一番ポピュラーな方法です。ノートやホワイトボードを利用し、言いたいことを伝えることができます。しかし、鉛筆やマジックを握り、書く力が必要なため、力が弱くなってくると字が書きにくくなります。

2)文字盤

五十音が書かれたボードを一文字ずつ指でさして、言葉にする方法です。文字盤はいろいろな書式があるため、いくつか種類を試し、ご利用者にあう書式で使用していきます。また、文字盤の裏にいくつか短文(例:痛い、かゆい、トイレ)を入れておくことで、言いたいことが省略できます。ただし、この方法も筆談と同様、文字を指すため、腕の力が弱くなってくると指すことが難しくなり、どこを指しているのか、わからなくなることがあります。

手足の動きが難しくなった場合

1)透明文字盤

先ほどご紹介した文字盤と違う点は、文字盤が透明であることと、指す方法が目で見る方法に変わることです。イラストのように、ご利用者がどの文字を見ているかを介護者が見て、言いたいことを読み取ります。ボード自体は手作りもできるため、簡便ですが、ご利用者は言いたい文字をじっと見つめないといけない。介護者はボードを動かしながら、視線を読み取らないといけないため、慣れるまで双方に練習が必要になります。

2)読み上げた文字に反応する方法

介護者が50音を下記の方法で読み上げ、該当する文字の時に、ご利用者が反応する方法です。簡便であり、力が弱くて握れなくても、眼をつむる、首を動かすなど体の動く場所で反応できれば、使用できます。しかし、時間がかかるため、ご利用者が疲れやすく、急を要する時は不向きです。
①介護者「あ、か、さ、た、な・・・」行を読み上げる⇒ご利用者が該当する行の時に反応(例:あ行)
②介護者「あ、い、う、え、お」⇒ご利用者は該当する文字の時に握る

3)意思伝達装置(オリヒメ、伝の心、ファインチャットなど)

特殊なパソコンを用いて、意思を伝える方法です。意思伝達装置は、ボタンスイッチから視線でのスイッチなど、いろいろなスイッチの形があるため、手足に力が入らない方でも使用できます。また、メールやLINE、インターネットなども使用できるため、余暇活動が広がります。また、役所へ申請を行うと、助成金を受けて購入することができます。意思伝達装置を使用する際は、パソコン操作、入力などの練習が必要になります。体の状態で、必要になってから申請・購入するのではなく、少し早めに申請・購入することで、実際必要になった時に使えるように準備することが大切です。当院では、申請方法のご案内などの取り組みも積極的に行っていますので、一度ご興味があればご相談ください。

おわりに

私たち、リハビリ専門職はご利用者に接している中で、ご利用者から「言いたいことが伝わらない。つらい。」や、ご家族から「本人の言っていることがわからないから困る。」などの相談を受けることが多々あります。意思の伝達ができないと、ご利用者は精神的に落ち込み、日常生活も不便を感じるため、生きる意欲が減退していく恐れがあります。また、ご家族も「せっかくご利用者と会話をしようとしても話ができないから」と、話をするのをあきらめてしまうことがあるようです。意思の伝達ができないと、他者との意思疎通も難しくなります。そうなることによるデメリットは計り知れません。そのため、私たちはご本人やご家族に寄り添えるように、試行錯誤しながら、ご利用者が自ら意思の伝達ができる方法を日々探しています。今回ご紹介した方法は、ほんの一部です。これからも、ご利用者が快適に日常生活を送れるように、また、ご家族がご利用者と楽しい時間を過ごせるように、取り組んでいきたいと思います。